#225 建築家・田村晟一朗さん ベンチの落書きから考えるまちの公共と表現
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■UMINATO BENCH
小倉北区の船場広場に、4台のベンチがあります。その名も「UMINATO BENCH」。市内企業の寄付金を活用して、セントシティという商業施設の広場を舞台に、民間の力で生まれたプロジェクトです。
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通り抜けるだけの空間を、人が自然に立ち寄り、語らい、くつろげる"街のリビング"へ。そのベンチを設計したのが、地元の一級建築士・田村晟一朗さんです。北九州を囲む関門海峡をはじめとする海の風景と暮らしのリズムを、木のぬくもりと曲線で表現しています。
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昨年11月のお披露目以来、すっかり街の景色になっていたこのベンチに、ある日、落書きが見つかりました。
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■田村さんの呼びかけにたくさんの人がこたえた
田村さんはFacebookにこう投稿されました。
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「正直、かなりショックです。このベンチは、街の人たちが自由に過ごせる場所として、多くの関係者が思案し、かなりの労力を費やし、丁寧に作りました」
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「もしこれを書いた人が見ていたら名乗り出てください。責め立てることが目的ではありません。一緒に消す作業をして、この場所を元に戻したいと思っています」
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「ベンチの設計者としては悔しいし、正直かなり腹も立っています。でも同時に、俺自身、TAMTAMgahakuとして拙い作品を抱えて全国で個展をしてきた一人の表現者でもあるので、少し複雑な気持ちでもいます」
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「誰かがここに自分の痕跡を残したいと思って書いたものが、誰かに——少なくとも俺には——嫌悪され、SNSに晒され、最後には消えていく。その流れを見ていると、『表現って何なんだろう』とか、『公共って誰のものなんだろう』とか、『アートはどこへ向かうべきなんだろう』って考えさせられます」
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「もし本当に表現したいという衝動があるなら、匿名で何かや誰かを傷つけるんじゃなくて、いつか堂々と作品として向き合って、しっかり公共の場や自由の場で表現してほしい。なんなら俺はその手伝いができると思う」
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「俺はこの街から、表現そのものまで消したいわけじゃない」
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投稿は拡散され、田村さんのFacebookには「行きます」という声が次々と集まりました。私もそのひとりです。
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■建築家であり画伯
田村さんは高知県生まれ。2012年にタムタムデザイン一級建築士事務所を設立されています。以来、北九州のリノベーション界を牽引する存在として活動してきました。リノベーション・オブ・ザ・イヤーの総合グランプリを史上最多の3度受賞されています。
八幡西区の黒崎にある寿通り商店街の再生のキーマンとして、「ガイアの夜明け」にも取り上げられました。建物をデザインするだけでなく、そこに集う人のストーリーまで描く、街そのものをデザインされてきた方です。
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田村さんにはTAMTAM gahakuとして活動された際に似顔絵を描いていただいたことがあり、それが今も私のInstagramのアイコンになっています。
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■30人が集まった
5月19日(火)14時、広場には田村さんと広場運営担当の木原さん、北九州市の職員の方たち、ベンチを作った工房の職人さん、そして「SNSを見て」「この広場にお世話になったから」というボランティアの方たちが集まりました。最終的には約30人。大変いいお天気のもと、作業が始まりました。
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ベンチは木製のため、主にグラインダーで削ったうえから塗料を塗るというメンテナンス。皆でアイデアを出し合い、交代でベンチを磨きました。遠目に眺める通行人も多くいらっしゃって、1時間ほどの作業は、和やかな雰囲気でした。
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■グラフィティはコミュニケーションなのか
言ってしまえば落書きはどこにでも溢れているし、もっとひどいエリアもたくさんあります。
田村さんの投稿で私が一番心を動かされたのは、怒りをぶつけるのではなく、対話を呼びかけていたこと。私が同じ立場だったとして、こんなふうに言えるだろうかと考えました。それは、このまちと仕事に真剣に向き合ってきた人だからこそ出てくる言葉だと思ったんです。
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私が所属する研究室に、以前グラフィティをテーマに修士論文を書いた学生さんがいました。グラフィティ自体が違法行為であるため取材が難しく、工夫が必要だったこともあって多少の知識があります。
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グラフィティを描く人たちの中には、街とコミュニケーションを取っているのだという方もいました。ちょっと不思議な感覚ですが、ある種の呼びかけなのかもしれない。
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彼らがコールしたから田村さんたちがレスポンスしたのか、それとも田村さんのコールに対して私たちがレスポンスしたのか——作業を見ながらそんなことを考えていました。
「対話をしよう」と口にする人はいても、本気でそう思っている人はそんなに多くはない気がします。田村さんの言葉が本気だったから、こうやってみんなが集まってきたんだと感じました。
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■消したのではなく整え直した
田村さんいわく「今日は作品を消したというよりも、みんなの居場所を整え直した感覚に近かった。自分が描いたものを嫌悪されながら消されるというのはすごく切ない」
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時間帯による利用制限や看板を置くといったことは予定していないとのことでした。禁止事項を増やすのではなく、みんなで守っていくという行動を発信し続けることが抑止力になる——。
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公共空間は行政が作るものじゃなくて、監視するものでもなくて、結局こうやってみんなで手を入れ続けることでしか育たないのかもしれません。
ベンチはすっかりきれいになって、晴れた広場にまた人が腰を下ろしていました。
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少なくとも次ここを訪れた時、私はこのベンチを特別な思いを持って見ると思います。そして、もしゴミがあったり汚れていたりしたら、きれいにしたいと思うかもしれません。自分の街だと感じられるものや体験があるって、本当に大切だなと感じました。 ㅤㅤ ㅤ
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田村さん、お邪魔させていただき、本当にありがとうございました。
小倉北区の船場広場に、4台のベンチがあります。その名も「UMINATO BENCH」。市内企業の寄付金を活用して、セントシティという商業施設の広場を舞台に、民間の力で生まれたプロジェクトです。
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通り抜けるだけの空間を、人が自然に立ち寄り、語らい、くつろげる"街のリビング"へ。そのベンチを設計したのが、地元の一級建築士・田村晟一朗さんです。北九州を囲む関門海峡をはじめとする海の風景と暮らしのリズムを、木のぬくもりと曲線で表現しています。
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昨年11月のお披露目以来、すっかり街の景色になっていたこのベンチに、ある日、落書きが見つかりました。
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■田村さんの呼びかけにたくさんの人がこたえた
田村さんはFacebookにこう投稿されました。
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「正直、かなりショックです。このベンチは、街の人たちが自由に過ごせる場所として、多くの関係者が思案し、かなりの労力を費やし、丁寧に作りました」
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「もしこれを書いた人が見ていたら名乗り出てください。責め立てることが目的ではありません。一緒に消す作業をして、この場所を元に戻したいと思っています」
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「ベンチの設計者としては悔しいし、正直かなり腹も立っています。でも同時に、俺自身、TAMTAMgahakuとして拙い作品を抱えて全国で個展をしてきた一人の表現者でもあるので、少し複雑な気持ちでもいます」
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「誰かがここに自分の痕跡を残したいと思って書いたものが、誰かに——少なくとも俺には——嫌悪され、SNSに晒され、最後には消えていく。その流れを見ていると、『表現って何なんだろう』とか、『公共って誰のものなんだろう』とか、『アートはどこへ向かうべきなんだろう』って考えさせられます」
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「もし本当に表現したいという衝動があるなら、匿名で何かや誰かを傷つけるんじゃなくて、いつか堂々と作品として向き合って、しっかり公共の場や自由の場で表現してほしい。なんなら俺はその手伝いができると思う」
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「俺はこの街から、表現そのものまで消したいわけじゃない」
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投稿は拡散され、田村さんのFacebookには「行きます」という声が次々と集まりました。私もそのひとりです。
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■建築家であり画伯
田村さんは高知県生まれ。2012年にタムタムデザイン一級建築士事務所を設立されています。以来、北九州のリノベーション界を牽引する存在として活動してきました。リノベーション・オブ・ザ・イヤーの総合グランプリを史上最多の3度受賞されています。
八幡西区の黒崎にある寿通り商店街の再生のキーマンとして、「ガイアの夜明け」にも取り上げられました。建物をデザインするだけでなく、そこに集う人のストーリーまで描く、街そのものをデザインされてきた方です。
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田村さんにはTAMTAM gahakuとして活動された際に似顔絵を描いていただいたことがあり、それが今も私のInstagramのアイコンになっています。
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■30人が集まった
5月19日(火)14時、広場には田村さんと広場運営担当の木原さん、北九州市の職員の方たち、ベンチを作った工房の職人さん、そして「SNSを見て」「この広場にお世話になったから」というボランティアの方たちが集まりました。最終的には約30人。大変いいお天気のもと、作業が始まりました。
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ベンチは木製のため、主にグラインダーで削ったうえから塗料を塗るというメンテナンス。皆でアイデアを出し合い、交代でベンチを磨きました。遠目に眺める通行人も多くいらっしゃって、1時間ほどの作業は、和やかな雰囲気でした。
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■グラフィティはコミュニケーションなのか
言ってしまえば落書きはどこにでも溢れているし、もっとひどいエリアもたくさんあります。
田村さんの投稿で私が一番心を動かされたのは、怒りをぶつけるのではなく、対話を呼びかけていたこと。私が同じ立場だったとして、こんなふうに言えるだろうかと考えました。それは、このまちと仕事に真剣に向き合ってきた人だからこそ出てくる言葉だと思ったんです。
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私が所属する研究室に、以前グラフィティをテーマに修士論文を書いた学生さんがいました。グラフィティ自体が違法行為であるため取材が難しく、工夫が必要だったこともあって多少の知識があります。
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グラフィティを描く人たちの中には、街とコミュニケーションを取っているのだという方もいました。ちょっと不思議な感覚ですが、ある種の呼びかけなのかもしれない。
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彼らがコールしたから田村さんたちがレスポンスしたのか、それとも田村さんのコールに対して私たちがレスポンスしたのか——作業を見ながらそんなことを考えていました。
「対話をしよう」と口にする人はいても、本気でそう思っている人はそんなに多くはない気がします。田村さんの言葉が本気だったから、こうやってみんなが集まってきたんだと感じました。
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■消したのではなく整え直した
田村さんいわく「今日は作品を消したというよりも、みんなの居場所を整え直した感覚に近かった。自分が描いたものを嫌悪されながら消されるというのはすごく切ない」
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時間帯による利用制限や看板を置くといったことは予定していないとのことでした。禁止事項を増やすのではなく、みんなで守っていくという行動を発信し続けることが抑止力になる——。
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公共空間は行政が作るものじゃなくて、監視するものでもなくて、結局こうやってみんなで手を入れ続けることでしか育たないのかもしれません。
ベンチはすっかりきれいになって、晴れた広場にまた人が腰を下ろしていました。
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少なくとも次ここを訪れた時、私はこのベンチを特別な思いを持って見ると思います。そして、もしゴミがあったり汚れていたりしたら、きれいにしたいと思うかもしれません。自分の街だと感じられるものや体験があるって、本当に大切だなと感じました。 ㅤㅤ ㅤ
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田村さん、お邪魔させていただき、本当にありがとうございました。
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フィッシュ 明子
- 00:161.
タイトルコール
- 07:252.
消したのではなく、整え直した
- 03:443.
田村さんのお話
- 01:074.
意思を感じるまち
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5月23日
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