TOPエンタメ映画・本ショートストーリーの朗読余白の献立06:12 9月7日 3再生 問題を報告する 再生する シェアする AI目次亡き母との再会 料理帳の秘密塩辛を諦めざるを得なかった理由母の愛情が滲む「塩を減らす」の筆跡完璧を諦め記す最後の献立とは「温かいうちに」母と最後の晩餐AI文字起こし(β版) # 余白の献立 最後に母に会うためのページを、私は箱の底へしまおうとしていた。 今日は母の家を明け渡す前の夜、息子が最後の食卓を用意する話です。 聞きどころは、懐かしい一言が料理を作る手を止めてしまうところです。 それでは今日の5分物語 余白のこんだて 母の料理帳には使っていない欄が一つだけあった。 この台所でそこに出来上がったこんだてを書くと、亡くなった母が食卓に戻る。 食べ終えれば帰る。書いた欄は決しても二度と使えない。 明日の朝、この家を人に渡す。だから今夜は母と食べる最後の夕食だった。 最後なら母の得意な塩辛を。そう決めたのに買ったイカには加熱用とあった。 塩辛にはせず、じゃがいもと煮ることにした。 料理帳の最後の欄の脇へ、鉛筆でじゃがいもと小さく書く。 隣のページには母の字で塩を減らす。子供の私が辛いと文句を言った日の書き足しだ。 元の分量を訂正する線は妙に太かった。 鍋から甘い匂いが上がった時、昔の声を思い出した。 せっかく覚えた味忘れないでね。そう言われていた。 母の料理帳に母が作らなかったものを書いていいのだろうか。 私はじゃがいもの文字を消した。煮物はもう出来ていた。 なのに書き足しを消すと少しだけ母の味に近づいた気がした。 塩辛の材料をちゃんと買えばよかった。これじゃあ最後に出すものじゃないよな。 誰もいない椅子へ言い訳を並べた。忘れないでね。 味見をするたび知らない味を見つける気がした。もう少し煮たら煮るかな。 何に煮せたいのか自分でも分からなかった。 やがて私は火を止めた。料理帳を閉じ引っ越しの箱に入れた。 今日はやめよう。月にちゃんと作れる時に。 使わなければ最後の一回は残る。明日この台所が無くなることは知っていた。 知っていたので箱の蓋を早く閉めようとした。 箱を閉じる前に私はもう一度料理帳を開いた。せめて正しい分量だけ覚えていこうと思った。 母の塩を減らすが見えた。私は子供の頃その薄い味を美味しいと言った。 母は元の数字へ戻さなかった。 消し跡に指を当てる。紙が薄くなっていた。 私の鉛筆より母の訂正線の方がずっと太い。 これ、母さんの方が書いてるじゃないか。 私は料理帳を箱から戻した。 完璧な塩辛を作って母に認めてもらう最後の機会。 この煮物に使えばそれは無くなる。 それでも最後の欄絵、ペンで書いた。 イカとジャガイモの煮物。 向かいの椅子がきしんだ。 ジャガイモ大きいね。 母は鍋の中を覗いていた。 切り方間違えたの? 間違いない。 母さんはこうじゃなかった。 でもあんたの鍋でしょ? 私は皿を置いた。 温かいうちに食べて。はいはい。 一口食べて何点か教えて。 点数? ちゃんとできたか知りたい。 先にあんたも食べなさいよ。 私だけ食べたら先に終わっちゃう。 私は慌てて箸を取った。 母はジャガイモを割り半分口へ運んだ。 私も食べた。 少し味が濃かった。 もう少し薄くてもよかったな。 私はこれでも食べるよ。 美味しいってこと? 今食べてるでしょ? 母の皿が空いていく。 もう少しゆっくり食べて。 温かいうちにって言ったでしょ? 冷めてもいいよ。 私は熱い方が好き。 じゃあ何か話そう。 何を? 何でも。 私が子供の頃のこととか。 母が短く答えるたび、 ジャガイモが一つ減った。 おかわりまだあるよ。 お腹いっぱい。 私はうんとだけ言った。 料理長に次はあんたに。 料理長に次は娘と書こうとして母のうなずきを待った。 椅子にはもう誰もいなかった。 忘れないように書いておくよ。 返事はなかった。 それでもペンを動かした。 ジャガイモは大きいまま。 もっと見る #家族ドラマ #日常幻想 ショートストーリーの朗読ソフトウェアテストTACT 「そふてた」と呼んでください06:121.余白の献立コメント感想・質問・応援メッセージを書こう
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