#258 株式会社ヤマチク 山﨑彰悟さん/給与も誇りも自分で決める会社づくり
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熊本県南関町で、竹の箸を60年以上作り続けている株式会社ヤマチクの三代目・山崎彰悟さんを訪ねました。
https://hashi.co.jp/
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福岡県の「入札参加資格における地域貢献活動評価項目(人権・同和問題啓発研修)対象研修・人権啓発指導者セミナー」を担当させていただいた際に、人権経営をしている会社の事例を出してほしいというリクエストをいただき、ならばヤマチクさんだと考え工場見学をお願いしたのでした。
当日は福岡県八女市で八女杉の活用と移住支援を行っている株式会社トビムシの沖雅之さんと、佐賀・鍋島焼きの鍋島虎仙窯 川副隆彦さんもインタビューに加わっていただきました。
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■お箸革命のはじまり
山崎さんは1989年生まれ。人口の少ない熊本県南関町で育ちました。立命館大学法学部を卒業後、大阪のIT企業でSEとして2年ほど働いた後で、家を継ぐために南関町に戻りましたが、当時は周囲から「よく戻ってきたね」と言われたそうです。
山崎さんのお父様はいつも「社長はピンハネ業。社員さんたちが働いてくれるから、自分たちは食べていける」と言っていた。
町では珍しく、山﨑さんは私立の中高一貫校に進学し、さらに私立大学へと進んだ。そのすべての学費を賄えたのは、社員さんたちが働いてくれていたからだ——そのことを子どもの頃からよくわかっていたので、山崎さんにとって家業に戻ることは当たり前だったといいます。
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24歳でヤマチクに入社。当時の従業員は15人、そのなかで山崎さんがぶっちぎりで年下でした。
最初はお箸の製造から。手先が不器用で覚えるのに苦労しつつも「自分の手で何かを生み出している感覚」が好きだった。
工場を見渡すと、世界でここにしか存在しない機械、世界でここにしかない技術があちこちにある。「本当にすごい会社だ」と素直に思ったそうです。
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しかし時間が経つにつれ違和感が積み重なっていきました。
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当時のヤマチクは100%OEMの下請けメーカー。単価は安く、給料を上げられない。お客さんのブランド名で作るため、自分たちの箸がどこで売られ、誰に使われているかも知ることができない。
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世界唯一の技術を持つ人たちが、自分たちの仕事に誇りを感じられていない。その歪みが、じわじわと山崎さんの中に蓄積されていきました。
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入社1年目のある日、竹を切り出す職人・切子さんの現場に同行した時のことです。
急斜面で、重労働な現場で仕事をしていたのは、70代の小柄なおじいさんでした。
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思わず「大変ですね」と声をかけると、肩に竹を担ぎながら、さらっとこう返ってきた。
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「世の中には、損する人も必要やけんねぇ」
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山崎さんは、その場で固まったといいます。
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何不自由なく育ち、県外の大学にも進学できた自分の暮らしが、誰かの「損な役回り」の上に成り立っていたかもしれない。薄々気づいていたけど、見て見ぬふりをしていた現実を突きつけられたのでした。
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帰りの車の中で、山崎さんは泣きました。
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その夜、ヤマチクが抱える課題とその原因を全て書き出しました。
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なぜ切子さんが報われないのか。なぜ給料が上げられないのか。なぜ唯一無二の技術を持ちながら下請けに甘んじているのか。
書けば書くほど、現状の理不尽さへの怒りが湧いてきた。そしてその怒りは、現状に疑問すら持たず甘んじていた自分自身にも向かったのです。
そしてノートにこう書いた。
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「現状をぶっ壊す。お箸革命。」
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■常識を覆すたった1つの共通点
バングラデシュで革製品や衣料品の自社ブランドを展開する「マザーハウス」の山崎大祐さんは、ヤマチクの山崎さんと対談されていた際にこうおっしゃっていました。
ものづくりの世界においてOEMから自社ブランドへの転換は「ほぼ起こらない」。製造に特化した組織文化、取引先との関係性、販売ノウハウの欠如——越えるべき壁があまりにも多く、多くのメーカーが志半ばで断念する。そもそも挑戦すら試みない。
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それが業界の「常識」だといいます。
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しかし山崎大祐さんはこうも強調していました。それでも振り切れる企業には、ひとつの共通点があると。それは、商品に対する絶対的な自信。どれだけ壁が高くても「この商品は本物だ」という確信がなければ、OEMという安定した地盤を捨てる決断はできない。逆に言えば、その確信さえあれば、人は想像以上のことをやり抜ける。
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ヤマチクにはそれがあったのです。
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世界唯一の機械、世界唯一の技術。竹という素材が持つ適度なしなりと、それを最大限に引き出す職人たちの手仕事。「本当に世界に通用する、すごい会社だ」と入社当初に感じた山崎さんの直感は、間違っていなかったのでした。
その自信を武器に、ヤマチクは常識を塗り替えていきました。
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2019年に自社ブランド「okaeri」を立ち上げ、ニューヨークADCなど国内外のデザイン賞を受賞。ロフトやビームスといったセレクトショップにも採用され、ミシュランの星を持つレストランでも使われるようになりました。2024年時点で17カ国に輸出。自社ブランドの売上は今や全体の70%を超えています。
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■OEM100%から、自社ブランド70%へ
この数字の裏に、どれだけの試行錯誤と、理不尽への怒りと、そして商品への絶対的な自信があったか。ものづくりの世界を知る人ほど、この転換の凄さがわかると思います。
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2023年11月11日、箸の日にオープンしたファクトリーショップ「拝啓」は、南関町の山の中にあります。
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周囲からは反対の声も上がりました。こんな場所に店を出して、誰が来るのか。採算は取れるのか。確かに立地としての常識で考えれば、無謀に見えたはず。
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しかし山崎さんは、やり遂げました。
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結果として「拝啓」は年商2,300万円を達成し、ここを訪れることを目的とした観光客も増え、南関町という小さな地域における存在感を着実に高めています。作り手と使い手が直接出会えるこの場所は、単なる販売拠点ではなく、ヤマチクが何者であるかを、訪れた人が体感できる場所になっています。
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「やれることは全部やっている」と山崎さんは言い切る。
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かっこつけない。華麗な戦略を語らない。ただ、できることを、やる。その当たり前に見える姿勢の中に、並外れた胆力があります。山の中に店を作ることも、反対を押し切ることも、彼にとっては「やれることをやった」の延長線上にあったのでした。
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■「自己申告給与制度」という革命
外向きの革命が形になってきた頃、山崎さんの目は社内へと向かい始めました。
2026年1月、ヤマチクは熊本県で初めて「自己申告給与制度」を導入したのです。
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社員さんが1年間の貢献内容を自ら定め、「この仕事をするから、いくらの給与がほしい」と自分で提示する。会社は過去の実績への評価ではなく、未来への投資としてすり合わせ、契約を結び直します。この制度の導入により、年間約1,100万円の給与総支給額の増加を予定しています。
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なぜ今、この制度なのか。
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「『働くこと=必要悪』という価値観から、一歩先へ進みたかったからです。自分で決めて、覚悟を決めて働いたほうが、結果的に人は幸せになれると思っています」
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給与を「会社から与えられるもの」から「自分が決めるもの」へ変えることは、単なる人事制度の話ではなく、「あなたの仕事の価値を、あなた自身が語っていい」というメッセージです。
「お金の話」をすることで本当の話ができる、どう生きたいかを具体的に話す時間にできる。
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キャリア支援の現場でよく出会う問いがあります。「自分の仕事に、どれくらいの価値があるんだろうか」と。
多くの人が、自分の価値を自分で決めることに慣れていません。それは個人の問題ではなく構造の問題で、山崎さんはその構造に、内側から風穴を開けようとしているのです。
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■隠さないことが、最大のエネルギーになる
山崎さんのSNSの発信を読んでいると、時々ドキッとすることがあります。
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経営の迷い、怒り、思うようにいかない現実。多くの経営者が体裁を整えて語るような場面でも、山崎さんはそのまま書く。飾らず、隠さず、今感じていることを言葉にする。
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その正直さが、読む人の心を揺さぶるのだと思います。
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隠さないということは、エネルギーをロスしないということ。体裁を保つために言葉を選び、見せたくない部分を覆い隠す作業には、膨大なエネルギーが消費されます。山崎さんはそのエネルギーを、ひとつも無駄にしていない。だからこそ、あれだけのことをやり続けられるのではないか。
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「やれることは全部やっている」というシンプルな言葉の重さは、そこにある気がします。
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かっこつけずに、自分のやれることをやる。その当たり前の積み重ねに、出会った人たちは心を触れられてしまう。そして気づいたら、この箸の良さを誰かに伝えたくなっている。
(私は頼まれてもないのに、誰かに会うときは自分で買ったヤマチクの箸を配りまくっていますw)
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■誰かの我慢の上に成り立つ社会を終わらせたい
「当たり前に生活の中にあるようなものでも、誰かが一生懸命作ったものだということを、忘れないでいてほしい」
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誰かが「損な役回り」を引き受けることで成り立つ社会ではなく、関わるすべての人の営みが適切に報われる循環をつくることが「本当のサステナブル」。山崎さんがヤマチクを通じて伝えたいのは、どんな仕事の裏にも人の生活があり、人生があるという当たり前の事実なのだと感じました。
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OEMから自社ブランドへの転換で外側の構造を変え、給与自己申告制で内側の意識を変え、山の中に店を作って地域の存在感を変える。革命は、様々な方向に影響を与えています。
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心から伝えたい。一度ヤマチクの箸を使ってご飯を食べると、もう他の箸は使えなくなります。
一番お値段の安いもので660円から、上は数千円。100円ショップに行けば5膳入って100円の商品もありますから「高い」という印象を持たれる方もおられるかもしれません。私も正直、そう思っていたんです。
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でも、工場見学から出てきた瞬間に「安すぎる!」と叫んでいました。それぐらい、本当に丁寧に作られたものです。
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そして驚いたのが、工場でいろんな方に話しかけた際に皆さんが、自分の言葉で返してくださることでした。
もちろん取材慣れしていることもあると思いますが、日々自分で考えてお仕事をなさっているからこそ、すぐに言葉が出てくるんだろうなと感じます。
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誇りに思える仕事ができるって、幸せですね。
山崎さん、丁寧にご対応いただき、本当にありがとうございました。工場でお話を伺った職人さんたちの顔を思い浮かべながら、お箸を使える喜びを、毎日感じています。
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https://hashi.co.jp/
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福岡県の「入札参加資格における地域貢献活動評価項目(人権・同和問題啓発研修)対象研修・人権啓発指導者セミナー」を担当させていただいた際に、人権経営をしている会社の事例を出してほしいというリクエストをいただき、ならばヤマチクさんだと考え工場見学をお願いしたのでした。
当日は福岡県八女市で八女杉の活用と移住支援を行っている株式会社トビムシの沖雅之さんと、佐賀・鍋島焼きの鍋島虎仙窯 川副隆彦さんもインタビューに加わっていただきました。
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■お箸革命のはじまり
山崎さんは1989年生まれ。人口の少ない熊本県南関町で育ちました。立命館大学法学部を卒業後、大阪のIT企業でSEとして2年ほど働いた後で、家を継ぐために南関町に戻りましたが、当時は周囲から「よく戻ってきたね」と言われたそうです。
山崎さんのお父様はいつも「社長はピンハネ業。社員さんたちが働いてくれるから、自分たちは食べていける」と言っていた。
町では珍しく、山﨑さんは私立の中高一貫校に進学し、さらに私立大学へと進んだ。そのすべての学費を賄えたのは、社員さんたちが働いてくれていたからだ——そのことを子どもの頃からよくわかっていたので、山崎さんにとって家業に戻ることは当たり前だったといいます。
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24歳でヤマチクに入社。当時の従業員は15人、そのなかで山崎さんがぶっちぎりで年下でした。
最初はお箸の製造から。手先が不器用で覚えるのに苦労しつつも「自分の手で何かを生み出している感覚」が好きだった。
工場を見渡すと、世界でここにしか存在しない機械、世界でここにしかない技術があちこちにある。「本当にすごい会社だ」と素直に思ったそうです。
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しかし時間が経つにつれ違和感が積み重なっていきました。
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当時のヤマチクは100%OEMの下請けメーカー。単価は安く、給料を上げられない。お客さんのブランド名で作るため、自分たちの箸がどこで売られ、誰に使われているかも知ることができない。
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世界唯一の技術を持つ人たちが、自分たちの仕事に誇りを感じられていない。その歪みが、じわじわと山崎さんの中に蓄積されていきました。
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入社1年目のある日、竹を切り出す職人・切子さんの現場に同行した時のことです。
急斜面で、重労働な現場で仕事をしていたのは、70代の小柄なおじいさんでした。
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思わず「大変ですね」と声をかけると、肩に竹を担ぎながら、さらっとこう返ってきた。
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「世の中には、損する人も必要やけんねぇ」
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山崎さんは、その場で固まったといいます。
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何不自由なく育ち、県外の大学にも進学できた自分の暮らしが、誰かの「損な役回り」の上に成り立っていたかもしれない。薄々気づいていたけど、見て見ぬふりをしていた現実を突きつけられたのでした。
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帰りの車の中で、山崎さんは泣きました。
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その夜、ヤマチクが抱える課題とその原因を全て書き出しました。
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なぜ切子さんが報われないのか。なぜ給料が上げられないのか。なぜ唯一無二の技術を持ちながら下請けに甘んじているのか。
書けば書くほど、現状の理不尽さへの怒りが湧いてきた。そしてその怒りは、現状に疑問すら持たず甘んじていた自分自身にも向かったのです。
そしてノートにこう書いた。
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「現状をぶっ壊す。お箸革命。」
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■常識を覆すたった1つの共通点
バングラデシュで革製品や衣料品の自社ブランドを展開する「マザーハウス」の山崎大祐さんは、ヤマチクの山崎さんと対談されていた際にこうおっしゃっていました。
ものづくりの世界においてOEMから自社ブランドへの転換は「ほぼ起こらない」。製造に特化した組織文化、取引先との関係性、販売ノウハウの欠如——越えるべき壁があまりにも多く、多くのメーカーが志半ばで断念する。そもそも挑戦すら試みない。
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それが業界の「常識」だといいます。
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しかし山崎大祐さんはこうも強調していました。それでも振り切れる企業には、ひとつの共通点があると。それは、商品に対する絶対的な自信。どれだけ壁が高くても「この商品は本物だ」という確信がなければ、OEMという安定した地盤を捨てる決断はできない。逆に言えば、その確信さえあれば、人は想像以上のことをやり抜ける。
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ヤマチクにはそれがあったのです。
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世界唯一の機械、世界唯一の技術。竹という素材が持つ適度なしなりと、それを最大限に引き出す職人たちの手仕事。「本当に世界に通用する、すごい会社だ」と入社当初に感じた山崎さんの直感は、間違っていなかったのでした。
その自信を武器に、ヤマチクは常識を塗り替えていきました。
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2019年に自社ブランド「okaeri」を立ち上げ、ニューヨークADCなど国内外のデザイン賞を受賞。ロフトやビームスといったセレクトショップにも採用され、ミシュランの星を持つレストランでも使われるようになりました。2024年時点で17カ国に輸出。自社ブランドの売上は今や全体の70%を超えています。
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■OEM100%から、自社ブランド70%へ
この数字の裏に、どれだけの試行錯誤と、理不尽への怒りと、そして商品への絶対的な自信があったか。ものづくりの世界を知る人ほど、この転換の凄さがわかると思います。
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2023年11月11日、箸の日にオープンしたファクトリーショップ「拝啓」は、南関町の山の中にあります。
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周囲からは反対の声も上がりました。こんな場所に店を出して、誰が来るのか。採算は取れるのか。確かに立地としての常識で考えれば、無謀に見えたはず。
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しかし山崎さんは、やり遂げました。
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結果として「拝啓」は年商2,300万円を達成し、ここを訪れることを目的とした観光客も増え、南関町という小さな地域における存在感を着実に高めています。作り手と使い手が直接出会えるこの場所は、単なる販売拠点ではなく、ヤマチクが何者であるかを、訪れた人が体感できる場所になっています。
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「やれることは全部やっている」と山崎さんは言い切る。
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かっこつけない。華麗な戦略を語らない。ただ、できることを、やる。その当たり前に見える姿勢の中に、並外れた胆力があります。山の中に店を作ることも、反対を押し切ることも、彼にとっては「やれることをやった」の延長線上にあったのでした。
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■「自己申告給与制度」という革命
外向きの革命が形になってきた頃、山崎さんの目は社内へと向かい始めました。
2026年1月、ヤマチクは熊本県で初めて「自己申告給与制度」を導入したのです。
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社員さんが1年間の貢献内容を自ら定め、「この仕事をするから、いくらの給与がほしい」と自分で提示する。会社は過去の実績への評価ではなく、未来への投資としてすり合わせ、契約を結び直します。この制度の導入により、年間約1,100万円の給与総支給額の増加を予定しています。
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なぜ今、この制度なのか。
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「『働くこと=必要悪』という価値観から、一歩先へ進みたかったからです。自分で決めて、覚悟を決めて働いたほうが、結果的に人は幸せになれると思っています」
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給与を「会社から与えられるもの」から「自分が決めるもの」へ変えることは、単なる人事制度の話ではなく、「あなたの仕事の価値を、あなた自身が語っていい」というメッセージです。
「お金の話」をすることで本当の話ができる、どう生きたいかを具体的に話す時間にできる。
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キャリア支援の現場でよく出会う問いがあります。「自分の仕事に、どれくらいの価値があるんだろうか」と。
多くの人が、自分の価値を自分で決めることに慣れていません。それは個人の問題ではなく構造の問題で、山崎さんはその構造に、内側から風穴を開けようとしているのです。
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■隠さないことが、最大のエネルギーになる
山崎さんのSNSの発信を読んでいると、時々ドキッとすることがあります。
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経営の迷い、怒り、思うようにいかない現実。多くの経営者が体裁を整えて語るような場面でも、山崎さんはそのまま書く。飾らず、隠さず、今感じていることを言葉にする。
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その正直さが、読む人の心を揺さぶるのだと思います。
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隠さないということは、エネルギーをロスしないということ。体裁を保つために言葉を選び、見せたくない部分を覆い隠す作業には、膨大なエネルギーが消費されます。山崎さんはそのエネルギーを、ひとつも無駄にしていない。だからこそ、あれだけのことをやり続けられるのではないか。
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「やれることは全部やっている」というシンプルな言葉の重さは、そこにある気がします。
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かっこつけずに、自分のやれることをやる。その当たり前の積み重ねに、出会った人たちは心を触れられてしまう。そして気づいたら、この箸の良さを誰かに伝えたくなっている。
(私は頼まれてもないのに、誰かに会うときは自分で買ったヤマチクの箸を配りまくっていますw)
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■誰かの我慢の上に成り立つ社会を終わらせたい
「当たり前に生活の中にあるようなものでも、誰かが一生懸命作ったものだということを、忘れないでいてほしい」
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誰かが「損な役回り」を引き受けることで成り立つ社会ではなく、関わるすべての人の営みが適切に報われる循環をつくることが「本当のサステナブル」。山崎さんがヤマチクを通じて伝えたいのは、どんな仕事の裏にも人の生活があり、人生があるという当たり前の事実なのだと感じました。
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OEMから自社ブランドへの転換で外側の構造を変え、給与自己申告制で内側の意識を変え、山の中に店を作って地域の存在感を変える。革命は、様々な方向に影響を与えています。
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心から伝えたい。一度ヤマチクの箸を使ってご飯を食べると、もう他の箸は使えなくなります。
一番お値段の安いもので660円から、上は数千円。100円ショップに行けば5膳入って100円の商品もありますから「高い」という印象を持たれる方もおられるかもしれません。私も正直、そう思っていたんです。
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でも、工場見学から出てきた瞬間に「安すぎる!」と叫んでいました。それぐらい、本当に丁寧に作られたものです。
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そして驚いたのが、工場でいろんな方に話しかけた際に皆さんが、自分の言葉で返してくださることでした。
もちろん取材慣れしていることもあると思いますが、日々自分で考えてお仕事をなさっているからこそ、すぐに言葉が出てくるんだろうなと感じます。
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誇りに思える仕事ができるって、幸せですね。
山崎さん、丁寧にご対応いただき、本当にありがとうございました。工場でお話を伺った職人さんたちの顔を思い浮かべながら、お箸を使える喜びを、毎日感じています。
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昼スナママ・フィッシュ明子の役にたたなくてもいいラジオ
フィッシュ 明子
- 00:161.
タイトルコール
- 08:072.
「現状をぶっ壊す。お箸革命。」
- 04:283.
「自己申告給与制度」という革命
- 24:284.
山崎さんのお話
- 01:555.
オンラインストアから購入できます
コメント

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hideo
7月23日
放送ありがとうございました。とても良い刺激をいただきました
フィッシュ 明子
7月23日
そう言っていただけて嬉しいです。お箸と山崎さんに惚れました!